アンジェリークとオスカー様がエリューシオンを救った話はまたたく間に飛空都市をかけぬけました。
あのオスカー様が女王候補とエリューシオンで一夜を明かしたらしい、もっとも二人がかりで今まさに大陸を破壊しようとする隕石をぶちこわしていたそうだ。飛空都市の女性の大半はほっと胸をなで下ろし、たいした女王候補だと人々の評価はうなぎ登りになり、そして、首座の守護聖ジュリアス様の知れるところとなり……
「ここに呼び出されたわけはわかっているであろうな。」
オスカー様とアンジェはジュリアス様の執務室で二人そろってお説教をくらうことになったのでした。
「……というわけだ。わかったな、二人とも、そなたたちはこの宇宙において欠くことのできない存在なのだぞ。そのそなたたちが率先して行動を起こしてどうするというのだ。」
ああ、もうわかってる、エリューシオンから帰る道すがらオスカー様から耳にタコができるくらい聞かされたわ。でも、同じ言葉をジュリアス様の右腕と言われるオスカー様が聞かされるのはきっとお辛いでしょうね。アンジェリークは申し訳ない気持ちになりました。ジュリアス様に申し開きをしなくては、オスカー様は実際私を止めようとしただけで巻き込まれただけだもの。アンジェリークが口を開こうとしたとき
「申し訳ありません、ジュリアス様。すべての責任はこのオスカーにあります。」
オスカー様がそう言っていたのでした。
「人々を導き、指導する立場の者が前線にたつことは危険きわまりないことです。しかし、民が自分たちの力でどうにもならない時、人々を守ろうとしたアンジェリークの判断は正しかったと思います。俺は彼女に導き手としての資質があると認めます。非があるとしたら、それは彼女を守るべき立場にいながら彼女を危険にさらした自分にあります。処分は何なりと受けますのでアンジェリークにはどうかおとがめなく試験の続行をお願いいたします。」
アンジェリークは自分が言おうとした言葉も忘れ、口をぱくぱくさせるばかりでした。頭がこんがらがって、でもオスカー様は悪くなくって…とにかく、自分のせいでオスカー様が処罰を受けるなんて絶対ダメで…どうしよう、どうしよう…アンジェリークが必死になってジュリアス様への言葉を考えていると
「わかった。」
ジュリアス様の言葉が響いてしんとなります。
「今回のことは予想外のアクシデントだった。大陸も大事なく試験続行に何ら問題はない。二人とも処分の必要はないが、今後各々の身に充分気をつけることだ。」
それって二人ともおとがめなしってこと…?ラッキー!という言葉が口をつきそうになってアンジェリークは小さく息をのみます。
「それにしても、また同じような言葉を聞くことになるとはな。立場は違うが、オスカー、そなたがまだ王立派遣軍に所属していた時そなたの部下たちから同じような言葉を聞いたぞ。あれは私が次期守護聖となるそなたの様子を見に主星を訪れた時のことだったか…」
オスカー様の目が大きく開きます。その驚いた表情がなんだかいつもの大人ぶったオスカー様とちがって、まるで子どものようだとアンジェリークは見つめていました。
なんだか、かわいいかも…
不意に浮かんだ自分の考えをうっかりこの意地悪なでもちょっと素敵な炎の守護聖に気づかれたら大変とアンジェリークは目をそらしました。意地悪なオスカー様の秘密を知ってしまったちょっとイタズラな、うれしいようなへんな気持ちです。
窓の外をみると聖地は今日も抜けるような青空でした。
さて、ゼフェル様は少々おかんむりでした。
せっかくアンジェリークに作ってあげたオルゴールがこともあろうに隕石を破壊するための核弾頭代わりに使われたのですから。
「確かに動力源は原子炉だけどよ、音の鳴るところはフツーのパーツだったんだぜ。」
とはいうものの、大陸が無事だったことはよかったよな、と王立研究員でエリューシオンを見つめながらゼフェル様は思います。ふと、何かが大陸を横切るのが見えました。隕石のかけらか?と思いましたが、石ではないようです。何か人工のパーツが惑星の衛星軌道上をゆっくりと動いているのです。息を凝らして見つめるゼフェル様に音が聞こえ…いえ、見えてきました。オルゴールの音を響かせる円筒形のシリンダーです。宇宙空間ですから音を響かせることはできません。ですが、シリンダーはゆっくりと回りながらエリューシオンの衛星軌道上を慣性の力で飛び続けていました。
「歌う衛星か。あの大陸の連中がいつか中央の島どころか宇宙まで飛び出した時、このパーツをみつけたら…」
それを思うとゼフェル様の目はイタズラっぽく、くっくと笑いはじめました。
星を守り砕けたはずのオルゴールはエリューシオンを回り続けます。原子炉も何もなくとも、慣性の力で半永久的に歌う衛星として星を見守り続けることでしょう。
まわれ、まわれ
天使の翼にのって
オルゴールは歌いながら明日の天気を、天使の明日を占う衛星のように星を回り続けるのでした。
おしまい
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