さて、話は少し前にもどります。いえ、少し前というのはおかしいかもしれません。なぜなら、守護聖さまたちにとっては少し前でも地上ではとんでもない年月がたっているからです。

 主星には女王陛下直轄の王立派遣軍が配置されていました。その中の一師団の司令はまだ16,7才、ほんの子どもでした。本当なら士官学校に通い始めたくらいの年齢でしたが、彼には時間がなかったのです。2年後、彼は炎の守護聖として聖地に召還されることがきまっていました。炎の守護聖は王立派遣軍の最高司令の任につきます。少しでも現場のことを知る必要がありました。そこで異例の配置となったのです。
 とはいうもの彼の部下は皆年上で実戦経験も豊富でした。任務は危険の少ない…およそ危険なことは何一つおこるはずのないものばかりで、そこで彼は聖地に召還されるまでのほんの2,3年「腰掛け」の任務に就いていたのです。
 これは彼のプライドを大きく傷つけていました。子どもとはいえ代々軍人の家の出です。剣術も体術も充分鍛えられていましたし自信もありました。なにより自分の力を試してみたくて仕方がなかったのです。少しでも自分の力を認めてもらいたくて必死でした。それなりの成果も上げていました。しかし、周囲の「いずれ中央へ行くキャリアのお坊っちゃま」「決してお怪我のないように」といった扱いは変わることがありませんでした。
 その日、彼に与えられた任務は聖地から視察に来たある重要人物の護衛でした。それがどのような立場の人物かは知らされていませんでしたが、およそまったく危険のない任務だったのです。しかし…

 しかし…全く予期しない形で事故は起こりました。彼は命に別状はなかったとはいえ怪我を負い、彼の部下は「大切な次期守護聖様に怪我を負わせた」という理由で処分を受けることになったのでした。すぐに聖地に運ばれた彼がそのことを知った時、もはや地上では果てしない時間がたった後だったのです。

「なんであんな事を思い出しちまうんだろうな…」
 走り回る17才のちっちゃな女王候補、アンジェリークを見るたびにオスカー様の心はうずきます。自信と自負、思いこみと無力感。そして、とりかえせない過失と後悔。乗り越えたはずの感情のはずなのに。
「もしかしたらあの時の俺のおもり役だった部下たちも今の俺と同じ気持ちだったのかも知れんな。」
と、自嘲気味におもうのでした。

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