ラッピング! 第1話

「君との夜を俺にくれないか……?」

今夜は12月21日、1年で一番長い夜。

女王アンジェリークは聖地を飛び出し、

「白き極光の惑星」、オスカーの出張先まで駆けつけてきたのだった。

たった一言「誕生日おめでとう。」を伝えるために。

あわてて飛び出してきたため、何日もかけて選んだプレゼントも忘れてきてしまう有様だったが

その結果、彼から求められてきたのが、この一番長い夜を共に過ごすということだった。

「……それって、多分、そういうことよね……。」

どちらかというと、かなり鈍い方であるアンジェリークではあるが、

まさか相手の誕生日に一夜を共に過ごすよう求められて、

一晩中「おはなし」ですむと思うほど子供ではない。

まして、相手はあのオスカーである。

「どうしよう……。こんな事になるなんて思っていなかったし……。」

初めてというわけでもない。

運命がアンジェリークを女王に選んだその夜、

アンジェリークはオスカーにその身をゆだねた。

最もそれ以来、お互いの立場と錯綜する仕事に追われ、

密かに逢瀬を重ねていても肌を重ねることはなかったが。

「嫌じゃない、じゃないんだけど……。」 やっぱり怖い。

初めてオスカーに肌を許した時、アンジェリークはおびえ、身をすくませていた。

誰よりも愛しているオスカーの前であっても、

何も身にまとっていないことの緊張がアンジェリークの指先まで冷えきらせていたのだった。

そんなアンジェリークの指先一本一本に口づけし、

オスカーは耳元で低いバリトンが響かせる。

「大切な女性を手荒に扱ったりはしない。」

その言葉の通り、オスカーはアンジェリークの髪をその大きな手で優しくすき、抱き寄せた。

初めてみる男性の裸身。

思わず目をそらしてしまうが、引き締まった広い胸に頬を寄せると暖かく、

おどろくほどなめらかでついうっとりとしてしまう。

自分の体にのせられる、ほどよい相手の体の重み。

きっと自分に負担がかからないようにその力強い両腕で体を支えているのだ。

自分に伝わるずっしりとした重さが幸せの重さのようで涙が出た。

だけどオスカーが優しければ優しいほど、

本当に自分が彼にふさわしいのかと思うととまどわずにいられない。

そんなアンジェリークの不安を取り除くようにささやかれた言葉。

「愛している。綺麗だ……アンジェリーク。」

 あの言葉を、響きをアンジェリークは忘れない。思い出す度に胸が熱くなる。

この世界の誰よりも愛している相手から愛され求められていることの幸福感。

だから…… 彼を失望させることが何より怖い。

やっぱりつまらない子だ、ダメな子だと思われたくない。

女王としても、一人の女の子としても彼を幻滅させることだけは絶対にしたくない。

「ドレスはこれでいいよね。」  

黒のフレアーがたっぷりはいったスカートに豪華な黒のレースをあしらい、

ちょっと開いた胸元と開いた背中は大人っぽすぎるかなと思ったが、

きっとオスカーの好みだと思う。

髪もアップにして赤い大きなリボンをつけた。

赤は自分に似合う色だし、リボンは子供っぽいけどあんまり背伸びしても逆にえっちっぽい。

ああでもないこうでもないと何着も試着して決めたドレスと髪型。

「オスカーさまは気に入って下さるかしら。  お化粧もちょっとだけしてみたんだけど……

あと、私どんな下着つけてたっけ。」

そのとたん、アンジェリークの顔が蒼白になった。

 

「……いちごだ…………っ!」

 

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