紅の結鎖 1

 

 「4つのジェムはアルカディアにそろってしまった。忌々しい、金の髪の女王め。」
 「さすがは新しく宇宙をひとつ作り上げた創神の女王と言うべきか。」
 「今のうちに何とかしなくては。」
 「しかし、女王の力は強い。ラ・ガ様の力を持っても、今は聖地に入り込むことは不可能だろう。」
 「だが…一つだけ方法がないわけではない。」
 「女王に最も近く、女王を守る最も強い力。だが、同時に女王の最も弱いところでもある。」
 「あの赤い髪の守護聖か…?」
カタリと椅子の音を立てて長い銀色の髪の女が立ち上がる。
 「だったら、私に任せていただけるかしら?」

 聖地を巻き込んだオークション騒ぎも終わり、リゾート惑星ティラントを発つ日が来た。
 「お前さあ、とんでもない友達もってるよな。」
 「愛されてるのですねえ。」
 守護聖たちのなまあたたかい励ましの言葉をかけられても、チャーリーはただただ落ち込むばかりである。とにかくこのいまいましい惑星を離れてしまいたい。
 「さあ、さあ荷物はまとまりました?陛下もまってることやし、早々に帰りましょうや。皆さん、お揃いでっか?」
 ぐるりと部屋を見回すと……いない…紅い髪のあのお方が…
 「オスカー様ならだいぶ前に出ていかれましたよ。どうせ出発は深夜になるだろうって。」
当分食べられないであろうハンバーガーを大量にテイクアウトしカバンに詰めながら風の守護聖が答えた。怪しい凧のおもちゃ「スーパーレギオン号」の整備をしつつ鋼の守護聖が続ける。
 「下見じゃねえの。女の好きそうなスポットを熱心にチェックしていたからな。」
 「…下見…?まさか、陛下を連れ出す気じゃないでしょうね。」
 「まさかも、まさか。あいつもともとそのつもりでこの惑星に来たようなもんだからな。」
 「陛下も喜ぶだろうねえ。この惑星は本当に綺麗だもの。」
穏やかなものいいとはうらはらな水の守護聖の剣呑なまなざしにも気づかぬ様子で、年少組はいたって呑気そうである。だいたい、今更女王と炎の守護聖の関係をがたがた言ったところで野暮というものだ。表向きは女王と守護聖の立場とはいえ、二人きりの時は将来どころか二世を誓い合った恋人同士であることは暗黙の了解だ。もちろん水の守護聖だってそんなことは知っている。
「とはいうものの、夜にもなるといかがわしい界隈もありますからね…ここは…。」

 そして、まさに話題の中心人物はそのいかがわしい界隈のど真ん中にいた。とはいうものの、彼、炎の守護聖オスカーにとってほとんど勝手しったる庭のようなものだったが。どの惑星だってこういった界隈は似たようなものだ。きゃあきゃあと嬌声のする路地を抜け、しなだれかかる綺麗な蝶々たちの白い腕をにっこり笑ってひらりとかわしていく。
 「宿への近道と思ったが、結構距離があるもんだな。」
半分好きこのんで、無意識にこの手の道を選んでいることに気がついているのか、いないのかオスカーは呟く。その時
 「きゃあ!!」
路地の向こうから女の叫び声がする。オスカーは迷いもせず声の方に走った。
 人通りのない道の真ん中にシーツにくるまった人が倒れている。長い銀の髪の毛。どうやら女らしい。急いで抱きかかえると、シーツが落ちて…中から素っ裸の若い女が転がり落ちた。女の裸などに今更驚くオスカーではないが状況が状況だ。さすがにぎょっとして、力が抜けた。その一瞬…

 女は起きあがり、オスカーに飛びかかる。オスカーの喉笛に。あわてて突き放そうとしたが、相手が女だったからか一瞬が遅れた。女の唇…いや、歯が首筋にあたる。
 喉が…灼けた……

 後のことは、よく覚えていない。急激に意識が混濁する。朦朧とした意識の中でオスカーは自分の状況を考えていた。

 「……血を……吸われた………」

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