「宇宙に嫁ぐ君へ」(前編)

 

 

 

 

 新宇宙が誕生し、旧宇宙の星々の移動が終わったとはいえ、いまだフェリシアとエリューシオンでの女王試験は続行していたわ。それは二人の女王候補たちの意志。オスカー様はサクリアをおくる聖域「星の間」にたたれると剣を抜かれたわ。 
「女王候補たちの意志のままに二人のお嬢ちゃんへ、炎よ、俺の熱きサクリアよ、かの地に届き民の心に灯をともせ。消えない炎となって燃え上がり、ほとばしる情熱となれ!」
 オスカー様の剣を媒介に炎のサクリアは天空を裂いて中の島を照らす。その輝く炎に導かれるように、フェリシアとエリューシオン二つの大陸の民は中の島へ到着し、長い長い女王試験は終了したわ。

 


 聖地では金の髪の女王候補、アンジェリークの即位の儀の準備で大騒ぎ。そんな中、年少組のランディ様とマルセル様はアンジェリーク…様を連れだしたみたい。マルセル様はちょっと寂しそうに
「明日になったらアンジェはこんな風に自由に出歩くなんてできないんだね…」
というと、アンジェリーク様ははっとしてふっと寂しそうになる表情を隠すように笑顔で答えたわ。
「いやだ、まるでお別れみたいじゃないですか。同じ聖地にいるのに、もう会えないみたいな…」
本当はそんな気がしている、わかっているはずなのに、無理にそんなことないと自分に言い聞かせているみたい。
(あの時、新宇宙に旧宇宙のすべてを受け入れていたとき、私は一度死にそうになったんだわ。誰もいない世界の狭間で死ぬかも知れないと思ったとき、会いたかったのは…誰よりも会いたかったのは…。 …なぜだろう、同じ聖地にいるというのに、世界の狭間にいたときより遠くなってしまう気がする。もう、顔も見ることもできないようなそんな不安…私…どうして、そんなことが不安に思うんだろう……オスカー様………)

「ひらひらひらひら 白い蝶が逃げていく。」
 聖地の中庭を駆けていくアンジェリーク様と年少組のお二人をテラスで眺めているのはオリヴィエ様をはじめリュミエール様にオスカー様。
「お嬢ちゃんの白いドレス、まるでウエディングドレスだぜ。」
 オスカー様ったらなんだか遠い目をされていらっしゃるわ。ああ、もうじれったい。オスカー様もそんなテラスのりこえてアンジェリーク様のところへ行かれればよろしいのに…
「そうさ、だってあの子は明日には女王になっちゃうんだから。いってみれば宇宙にお嫁入りするようなもんだ。」
「宇宙へ嫁ぐ…か。そうだな、ちょっと妬けるな…」
って、あーっ、あーっ、オスカー様ったらすっかりメルトダウンされてるわーっ!!どっ…どっ…どうしましょう〜!!と、そこへ背後から気配も感じさせずお優しい水の守護聖様の最終兵器ハープがオスカー様の頭を直撃。たまらずつんのめるオスカー様に
「貴方らしくもない、むしろ勝負はこれからと思わないのですか。確か以前、自分が本気になったら女王候補だろうが、女王陛下だろうが立場なんか関係ない、この手に奪って宇宙が滅んでも愛しぬくとかほざいた私には考えもつかないおそろしいお考えの守護聖がいたような気がしましたが…記憶違いだったのでしょうかね。」
と、それはそれはお優しい微笑みを浮かべてリュミエール様がおっしゃったわ。
「…そうだな……だが、この新宇宙は彼女自身のようなものだ。この宇宙が滅ぶようなことがあったら彼女自身が崩壊する…」


 宇宙の狭間で旧宇宙のすべてを必死に受け入れようとしていたアンジェリーク様の姿を思ってか、オスカー様、いつもの覇気がありませんわーっ!!そんな沈滞ムードのなかオリヴィエ様がぼそっと呟かれたわ。
「金襴緞子の帯しめながら花嫁御寮はなぜ泣くのだろう…ある辺境の惑星の古い歌だよ。年頃になった娘は嫁に行くことを当然とされていた時代、結婚のあとにはこれまで少しはあった自由が全くなくなっていた時代の花嫁さんの歌さ。宇宙にお嫁入りか、おめでたいはずの即位の儀だけど、なんだかぱっとしないねえ…でっかい男が落ち込んでいる姿っていうのもうっとうしいったらありゃしない。」
 即位の儀は明日。ああああ、どうなっちゃうの、オスカー様にアンジェリーク様!

                             to be continued