「宇宙に嫁ぐ君へ」(後編)

 

 

 

 今日は新宇宙の女王になったアンジェリーク様の即位の儀。玉座の間には守護聖様方が勢揃いで式典の前の厳粛な雰囲気になっているわー。オスカー様は…表情を崩すことなく微動だにせずたたれていらっしゃるのだけど、なんだかそれがかえって重苦しいのよね。やがて、荘厳な音楽が流れてきて玉座の前に光が差し、開かれたドアから女王の正装に身を包んだアンジェリーク様が現れたの。

 第256代にして新世界の初代女王アンジェリーク、女王の玉座へ

 薄いピンク色の女王のドレスと長いヴェールのアンジェリーク様のお姿はまさに宇宙に嫁ぐ花嫁のようでゆっくりと玉座の前まで進み出ると深く頭を下げられたわ。アンジェリーク様の背中からはまぶしいほどの白い翼がふんわりと浮かびだんだんと輝きをましていく。そして、玉座の前に立たれたアンジェリーク様は誰かを捜しているかのように守護聖様方のほうを向かれたわ。そして、その瞳がオスカー様とあったとたん、緊張がすこし解けたようなほっとした表情になった瞬間、オスカー様は…眼を伏せてしまったのよ〜〜〜!まるで時間が止まってしまったかのようにアンジェリーク様は立ちつくしていたわ。それはとても長い時間だったのか、それともほんの短い時間だったのか。凍ったような時間の中、つぎつぎと守護聖様方の挨拶が進んでいくわ。
「お嬢ちゃん…」
その一言にはっとなるアンジェリーク様が顔を上げるとそこには臣下の礼をとるオスカー様が。
「…とはもうよべないな。どこから見ても立派なレディだ。炎の守護聖オスカー、我が剣と精神をもって陛下に忠誠を誓います。」
……陛下…そうね、もうお嬢ちゃんどころか名前さえ呼ぶことができなくなってしまうのね。玉座の御簾と女王のヴェールの向こうにへだてられ、今こうして足下にひざまずくオスカー様をこうやって見つめることさえ赦されない。アンジェリーク様の眼が大きく見開かれて、アンジェリーク様はそのままうつむいてしまわれたわ。薄いピンクのヴェールがその顔にかかって、その表情も見えない。

(…もう…もう、「お嬢ちゃん」じゃないんだわ…私。女王になればずっと一緒にいられると思ってた。でも本当は一番近くて遠くに行ってしまうということ…もう、顔を見ることもできなくなるんだわ…オスカー様…オスカー様…!)

「…陛下…?」

 オスカー様のその一言にびくっとなったアンジェリーク様が顔をあげると大きな碧の瞳から涙があふれかけて…

(見られた…!こんな泣き顔…オスカー様に見られた…!でも…)

 ぱっと眼をそらして、女王のヴェールのすそをつかむと顔を隠そうとするやいなや…

ふいに立ち上がったオスカー様がアンジェリーク様のヴェールをつかむとそのまま一気にはぎ取ってしまわれたわーっ!!列席者は騒然!厳粛に進んでいた式典の真っ最中に事もあろうに守護聖様が女王陛下につかみかかってその衣装をはいでしまうなんて前代未聞どころか、下手したら反逆罪よ。そんな騒ぎもどこ吹く風でオスカー様はアンジェリーク様を抱きしめる。

「……オスカー様…どうして…」
「…君が…俺を呼んだ…俺の名を呼んだ…あの時と同じように…」
(どうしてわかっちゃうんだろう… あの時もオスカー様に会いたかった、もう会えないのかと思ったら苦しくて苦しくて息が止まるかと思った…今だって…オスカー様、貴方に会いたいと思うときいつだって…)
「オスカー様…オスカー様…私、女王になります。貴方がいるから、貴方がいつだって来てくれるから…私、貴方が捧げた剣と心にふさわしい女王になります…!」
アンジェリーク様の細い腕がオスカー様の首に回される。
 その瞬間、玉座に光が差して世界が…新世界が一斉に新しい女王陛下を迎え入れた…女王の宣誓はなされ、ここに新女王アンジェリーク陛下の即位が高らかに宣言されたわ。…もっとも、式典の会場は騒然としたままだったのだけれど…
「それにしても少しばかり強敵だな…」
公衆の面前でそれも即位の儀の真っ最中、女王陛下を抱きしめたまま、オスカー様はアンジェリーク様…いえ、陛下の耳元で囁かれたわ。
「宇宙が恋敵だからな。もっとも相手にとって不足はない。君を手に入れるためなら宇宙さえも敵に回してもかまいはしない。」
「…もう…オスカー様ったら…」
「さしあたり、まずはジュリアス様とロザリアが相手のようなんだが…」
陛下の肩越しに見えるジュリアス様と新補佐官ロザリア様は眼を白黒させていたのだけれど、だんだんと落ち着きを取り戻すと共にわなわなと肩を震わせているご様子。オスカー様…これってすっごい強敵なんですけど…

 こうして、第256代女王は即位。先代までの女王とは違い。ヴェールを脱ぎ捨て、玉座の御簾を取り払い、階段をすり抜けて小鳥のように笑う女王。そしてその傍らにはいつもオスカー様が見守られていらっしゃるの。
 だから、オスカー様の出番が少なくても、エキストラに成り下がったと言われても、そんなことは決してないのだわ。だって、陛下の側には必ずオスカー様がいらっしゃるのだもの。あまねく星々の運行を見守る女王、その側にいらっしゃるオスカー様v
 そして、つづきは貴女の心の中で…