「オスカー様…どうして…」
「民に発展のための力や技術を与えるのは簡単だ。危険があったらあらかじめ排除し、成功だけを与えればエリューシオンはめざましく発展するだろう。だが、それでは民の力は育たない。歩き始めた子どもが転ぶのは当たり前だ。転べば痛い。痛いから今度は上手く歩こうとする。次に転ばずに歩けたとき、それは達成の喜びとなって次の目標への力となる。」
「…私…エリューシオンの民を甘やかしていたんでしょうか…」
「いきなり高いハードルを与えても、それを乗り越えるのは難しいからな。これまではお嬢ちゃんのやり方で充分育成できた。だが、これからはすこし高いハードルを与えて見守るのも大事なことだと思うぜ。この先、蒸気機関が成功すれば、今度は社会そのものが大きく変わる。争い事もふえ金持ちとそうでないものができる。場合によっては戦争が起こるからな。」
「そんなあ。」
「それを正しく導くのがお嬢ちゃんの役割だろう。」
くすくすと面白そうに笑うオスカー様。まあ、こんな事があったのね。
☆
リュミエール様の部屋を出たアンジェリークはなんだか吹っ切れたような表情ね。
(私…エリューシオンを甘やかしてる?ううん、甘やかしてるのは自分だ)
( 順調な時って甘いお菓子に似てる。でも、甘いばっかりじゃダメなんだ。オスカー様みたいに…)
突然、オスカー様のことを思いだして女王候補さんははっとなっているわ。
(オスカーさまって不思議…思わず目を惹かずにいられないくらい綺麗で、でも意地悪で…意地悪で…なぜだろう、とっても甘い…。ああ、以前食べたチョコレートに似てるんだわ。綺麗でほろ苦くて…でも、あとでとっても甘い…「half bitter」…)
今のエリューシオンの問題は民との望みのすれ違い。自分の思い描く理想を優先させるばかりに民の進歩の芽を伸ばせない。でも、エリューシオンの問題も解決しそうだわ。やっぱりオスカー様よね〜〜。もしかして、アンジェリークにハードルを与えている?与えるばかりが愛情ではないとおっしゃっていたけど……。オスカー様のお考えは深くていかな星のお告げでも、とても読み切れませんわ。