そりゃ…私は女王でオスカー様は守護聖だもの。
やらなきゃいけないことがいっぱいあって、
世界を支えて守らなきゃいけないんだもの。
…でも、私はまだ17歳で、
同じ歳の女の子は学校に行ってたわいのないおしゃべりして、
学校の帰りにはケーキを食べたりウィンドウショッピングを楽しんで
…好きな人と待ち合わせをして、映画を観たり、お茶を飲んだり…
なんで…なんで、女王になんかなっちゃったんだろう…
なんだか、涙が出そう…
「何だ、アンジェリーク、ここにいたのか。」
ふいに後ろから声をかけられた。
…オ…オスカー様…どうして…やだ、私…こんなところ見られたくない…
「どうした…?何かあったのか?」
何もないもの、何にもなくなっちゃったもの。
もう、クリスマスのお休みもないし、友達とスキーに行くことも、
ママの作ったケーキを囲んでみんなでお祝いすることも
好きな人の誕生日に堂々とプレゼント持ってデートすることも
…なんにも…なんにも…
「どうしたんだ?泣きそうな顔をしてる?」
……わたしは、いきなりオスカー様に抱きつくとマントに顔を埋めた。
涙がどんどん流れてきて、はじかれたように嗚咽がこみ上げてきた。
「…クリスマスのお休みにはスキーに行きたいの。
みんなと一緒に新作のスキーウエアをチェックして、
学校の帰りに喫茶店でお茶を飲むの。
テレビや映画の話をして、ファッション雑誌をながめて、
好きな人の誕生日にはプレゼントを用意して、待ち合わせして、
映画を観たりお茶を飲んだり…」
子どものように私は泣きながらだだをこねていた。
女王として尊敬してる、愛してるという言葉と引き替えに、
ずっと背伸びを続けていたのに…

こんな事言ったらオスカー様はきっと私のことを呆れるわ。
今だってとっても困っていらっしゃるはずだわ。
でも、でも…
「…アンジェリーク…」
…!おこられる…!
びくっとなって体をかたくした私の肩をオスカー様はそうっと抱いた。
「…なんだ…小さい子どもみたいだぞ…」
その声がとっても静かで、小さい子をあやすみたいで、
私はまたわんわん泣いた。
どれだけたっただろう。
泣くだけ泣くと、なんだか落ちついて、
私はそっとオスカー様の顔を見上げた。
優しい、でもとっても悲しそうで…
そうだ…オスカー様だっていろんなものをなくしてここにいるんだったわ。
もうずっと長い間…
「…帰りたいのか…?」
…聖地に召喚されなかったら、会うことはなかった。
女王にならなければ、守護聖にならなければ結ばれることはなかった。
私はオスカー様の背中に手を回すと、ぎゅっと抱きしめた。
何をなくしても、この暖かさだけはなくしたくない…
私はぶんぶんと首を振ると
「…ごめんなさい…もう少しだけこうしていていい?顔…あげられないの…」
きっと、涙でくしゃくしゃで目は腫れ上がってる。
オスカー様はそっと私の顔をもちあげると優しく口づけた。
…オスカー様がいれば何にもいらない…
「オスカー様…大好き…」
わたしはそっと呟いた。
END