「天使の告知」 第12

 

「なんだ、あれ。」

オスカーはその氷蒼の瞳を空に向けました。

一羽のカラスが小鳥をつついているのです。

「よーし。」

近くにあった石をひろうとカラスに向かって投げつけました。

投げた石はカラスに命中しカラスは這々のていで逃げていきます。

いじめられていた小さな鳥はびっくりしたように空中で羽ばたいていましたが

すぐに逃げ出していきました。

逃げていく小鳥を見ながら、なにか懐かしいようなものが胸に響きます。

それがなんなのかはわからないけれど

とても大切なあたたかいものが確かに胸の中にある。

あまいうずくような胸の痛みと一緒に。

 

街の中はクリスマスのイルミネーションでいっぱいです。

「そう言えば来週は俺の誕生日だったっけ。」

 

 

「お使いは無事すんだようですわね。」

「ああ、ディア。少々心配したがちゃんとやりとげたようだ。」

聖地では女王様と補佐官様が地上の様子を眺めていらっしゃいます。

「聖地からのメッセージは伝えられると同時にそのすべてのことを忘れてしまう。

メッセージの言葉も伝えに来た者のことも。」

「それでいいのだよ、ディア。

目で見えること、言葉にされていること、記憶していること、

それだけが真実ではない。

だが、それこそが私たちの伝えたいことなのだから。」

「アンジェリークはどうしました?」

「努めを終えた天使は人の子として転生する。

今、その準備にかかっているところだ。それに…。」

補佐官様は女王様の顔をのぞき込みます。

「あの子にはたぐいまれな資質があるようだ。

まだ幼いとはいえ守護聖たる者の心を開かせる…。

私は試してみようかと思っている。」

「…陛下…。」

「それにあの子がそうサンタに頼んでいるのだよ。

まあ、私がサンタの代わりをするのも悪くはあるまい。」

そう言って女王様はたいそう嬉しそうに笑われたのでした。

 

 

本当に美しいものは目には見えない。

真昼の星が決して見えないように。

 

見えない星に導かれてくるがいい。

そなたたちはやがて再びめぐり会う。

 

おしまい

 

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