◇  Love is in the air  ◇

第1話

 

「──あ」


執務机で羽ペンを片手に小さな声を上げるルヴァと、行儀悪く床の上にあぐらをかいて、彼の蔵書を何冊もひっくり返していたゼフェルの視線が合った。

「…帰ってきやがったか」

 かりかりと頭をかきながら、ゼフェルが苦笑する。

「はっきりとわかりますからねー、彼に急ぎの用がある時には便利ですよね」

 ルヴァは羽ペンをペン立てに立てると、よっこいしょと立ち上がり、書類の山の中からファイルを一つ引き出した。

「ちょっと行ってきますね。すぐに戻りますので、少し待ってもらえますか、オリヴィエ?」

「ああ、私の方はそんなに急ぎじゃないから。なんなら出直すよ?」

 ルヴァの仕事が一区切りつくのを待ちつつ、ソファでジャスミン入りのお茶など飲みながらすっかりくつろいでいたオリヴィエは、笑いながらひらひらと手を振ってみせた。

「適当な時間を見計らって、また顔を出すからさ。気にしないで行ってきな」

「すみませんねー。それじゃ」

軽く会釈して部屋を出て行ったルヴァが、扉の向こうで「おやあなたもですか、リュミエール〜?」とか何とか言っているのを聞いて、ゼフェルとオリヴィエは顔を見合わせてくくっと笑い合った。

「まあったく。便利っていや便利だけどねえ」

「こないだオレが行った時、ちょっとボヤいてたぜ、あのオッサン」

 ゼフェルはおかしそうに目をきらめかせながら、ニヤニヤと笑った。

「なんで聖地に帰ってきた途端、揃いも揃って仕事をおしつけに来る奴らに囲まれるんだ、ってな」

「しょうがないよねえー、あのバカが陛下んとこに報告に行く前につかまえとかなきゃ、次にあいつと仕事の話ができんのは、翌朝以降になっちまうんだからさ」

 オリヴィエはふふっと笑って肩をすくめた。

「だいたい、毎回毎回公然と、聖地中を巻き込んで盛大にノロケられてるみたいなもんなんだから。そのくらいのことには甘んじてもらわなけりゃあ、合わないよ」

 文句をつけるような口調でありながら、オリヴィエの顔つきは結構な上機嫌だ。それをおかしそうに見やりながら、ゼフェルは自分もこいつと大差ない顔をしているんだろうなと思った。

 

 

 

 第2話 第3話