一方、変わってエドワードは…。


アルフォンスが連れて行かれた方向へと、スキーを走らせた。
最初は馴れなかったが、持ち前の運動神経の良さでしばらくするとすっかり滑れるようになっていた。
しかし、方向は解っても大鷲の住処は解らない。
それは大きな森の中で、一片の葉を探すようなものだ。
でも、だからと言ってアルフォンスを追いかける事を諦めきれなかった。


「くっそ…、オレの所為だ。オレがばっちゃんちへ行こうなんて誘わなかったら。」

もう食べられてしまったのではないかと、心配で胸が張り裂けそうになりながらもエドワードは前にと進んだ。
お日様がすっかりてっぺんに登った頃、お腹が空いている事に気が付いた。
こんな寒くて、広い場所で探すのに腹ペコでは動けなくなる。
そう判断したエドワードは、大きな切り株の上に登りそこでリュックをおろした。
中からアルフォンスが作ってくれた、ローストビーフのピタパンを取り出しかぶりつこうと思ったらすぐ目の前の雪だまりに黒い棒が見えていた。

「…ん、何か埋まってるのか?」

荷物をそこに残して傍によると、黒いズボンを履いた足だった。

「うわああっ、誰か埋まってんのかよ!!」

事の重大さに気が付いて、エドワードは慌てて雪をかき分けて埋まっている者を掘り出した。
すっかり冷たくなって顔色は悪かったが、生きていてエドワードは安心した。

「おい、大丈夫か?」
「…死ぬかとおもったヨ。ありがトウ。」

そうお礼を述べた者は、黒い髪を長く伸ばし糸のように細い目をした男だった。
年のころはエドワードと大差なさそうであった。

「ちょっとまて、今コーヒー入れてやっから。」

ガタガタと震えているので、見かねたエドワードはリュックからコンロとコッヘルを出して雪をすくってお湯を沸かした。
温かな湯気が出ると、コーヒーを入れて渡してやる。
自分もマグカップに注いで、一緒に飲んだ。
パンも半分わけてやった。

「温かいナ、生き返った気分ダヨ。」
「そりゃよかったな。」
「オレはリン・ヤオ。」
「オレはエドワード・エルリックだ。」
「エド、だな。用意のいい奴だナ、家出か?」
「いや、弟探してんだ。大鷲にさらわれちまって。」
「大鷲に?それじゃ、今ゴロ…。」
「いや、アルフォンスは生きてる。アイツが勝手に死ぬわけないんだ。」

それにはリンは何も答えなかった。
すっかりパンもコーヒーも腹に収めると、エドワードは荷物を仕舞い始めた。

「なんだ、もう行くのカ?」
「ああ、弟を探さねえとな。」
「そうか、なら途中まで森を案内しヨウ。で、大鷲はどんなヤツだったんダ?」
「真っ黒で…そうだ、顔に大きな傷があった。」
「ああ、アイツか。知ってるゾ。」
「え、じゃあ案内してくれっ!」
「それはカマワないが、…ここはドコだ?」
「お前、方向音痴だろ。」

呆れると、リンはワハハと笑った。
どうやら図星のようだ。

「まあ、仲間に連絡が取れれバ案内は簡単ダ。ちょっと待ってロ。」

そういうと切り株の中心を少し削り、火をつけた。
モクモクと煙が上がり、空高くに伸びていった。

 

しばらく待っていると、しゅっと風切音がして黒い影が二つ現れた。

「若、ご無事ですか?」
「若、心配しましたぞ。」

黒い服を着た少女と、老人がすぐそばで立膝で座っている。

「おう、よく来たナ。ランファン、フー爺。」
「…何もんだ、お前…。」

次の瞬間、エドワードの喉元にナイフが当てられた。

「若に向かっテ、お前とは、ナンダ!」
「おいおい、ランファン。そいつはオレの命の恩人ダ。手荒な真似は止めてクレ。」
「はい、若。」

ナイフはさげられたが、エドワードは渋い顔をしたままだ。

「済まなかったナ、でもちゃんと大鷲の木まで送ろウ。」
「ああ、ありがとうな。」

そう言うと、4人は雪原を歩き始めた。