木の中に作られた階段はかなり急だったが、それでも降りるのはたやすい事だった。
あの縄はしごを使って降りるよりも安全で、確実だ。
その道中に、知り合ったリン達が自分を助けるために大急ぎで作ってくれたのだと教えてくれて感謝の言葉を述べた。

「本当はもっと早く出来る筈だったんだけど、大鷲が居ない時を見計らって最終的に繋げなくちゃいけなくってさ。」
「そうだね。今日でよかった。明日にはボク、居なかったかもしれないから。」
「…怖かったろ?」
「ううん、全然…。」

エドワードは気を使ってそうアルフォンスが言っていると思ったが、実の所あまり怖いとは思えなかったのだ。
食べられる恐怖が無いとは言わないが、でも一緒にしたお茶会は心から楽しかった。
木の下には大勢のリンの家臣が居て、アルフォンスが出てくると大歓声が起こる。
助けられた喜びを、共有してくれたのだ。
それにアルフォンスも笑顔で、感謝の言葉を述べる。

「さ、帰るぞ。」
「うん!」

数時間前までは悲しくて、もう二度と戻れないと思っていた家に帰れるのだと胸がジンとした。
すっかり慣れた兄のスキーの腕前について行けなかったが、それでも家に向かっているかと思うと疲れなど忘れてスキーを走らせた。
仲良くなったリンも、フーとランファンと大勢の家臣達を連れて家まで送ってくれるという。
実はエドワードから分けてもらった弁当がとても気に入ってしまい、アルフォンスが無事ならご馳走してやると約束していたのだ。
もちろん、アルフォンスもお礼がしたかったのでその申し出に快く応じた。

 

家とスカーの木の中程、もう大丈夫だろうと一休みをした。
アルフォンスのスキーの腕も上がってきていたし、これなら逃げ切れただろうと思った。
ふと雪の丘から遠くを見ると、白色に埋もれてオレンジの色が見えた。
冬になるオレンジの実だ。
小さな小鳥や、鹿などの動物に種を運んでもらう為にこの時期になる。
そのオレンジの木の葉が激しく揺れていた。
何だろうとよく目を凝らし、アルフォンスが見つめると…そこにスカーの姿が見えた。
何かに襲われているらしく、大きな羽を羽ばたかせて飛び立とうとしていたが羽毛と雪を舞い散らせるだけ。
黒狐のキンブリ―とその仲間2匹に襲われていたのだった。

「スカーさん!!」
「どうしたアル?」
「大鷲が襲われてるの!助けないと!!」
「なんで?だって大鷲はお前を食べようとしていたんだろ、放っておけ。」
「嫌だっ!!」

そのやり取りをリンが口をはさんだ。

「変わった奴だな〜、お前をその大鷲から逃げるのをオレ達は助けようとしてるトコロだろ?」
「でも…助けたいんだ!!」

そう怒鳴ると、アルフォンスはオレンジの木に向かってスキーを走らせた。

 

エドワードとリンは顔を合わせて、首をかしげたが悩んでいる時間はなさそうだ。

「仕方ねえ、オレも手伝ってくる。」
「さっぱり解らないナ。ま、これでアルフォンスに死なれたら困る。フー、ランファン、手を貸せ。」
「はい、殿。」

アルフォンスに続き、エドワードもリン達もスキーでオレンジの木に向かい走り出した。
スキーのストックをかざして、アルフォンスはキツネに挑んでいく。
急に来た援軍にキンブリ―は驚き、スカーの羽から口を放した。

「何だ、お前は?」
「どけっ!退かないと刺すぞ!!」

はじめ薄ら笑って、小さなアルフォンスを馬鹿にしていたキンブリ―だったがその後ろから、雪けむりをもうもうとあげながら大勢が向かって来たので眉をしかめた。

「っち、仕方ない。引きますよ。」

黒狐のキンブリ―は分が悪いとみて、その場を走り逃げて行った。
その場に残されたのは、翼を酷く痛めつけられ、腕から頭からも血を流して倒れているスカーだった。
昨日まで力強くたくましく、堂々としていた大鷲のこの姿を見てあまりの有様にアルフォンスは泣きたくなった。