「火曜日のごちそうはアルフォンス」

「サニーサイド」のあっちょんさんから、私の誕生日祝に「火曜日のごちそうはアルフォンス」を頂きました。
この話は「火曜日のごちそうはひきがえる」が原案になっていて、
大鷲のスカーさんがホビット的な謎の妖精の兄弟のうちアルフォンスをさらってしまいます。
大鷲の誕生日は火曜日、その日のごちそうにアルフォンスを食べる…というのですが…

原案はよい子のお友達向けの心温まるお話ですが、
こちらはおっきなお友達向けの心温まるお話ですので
そこんとこご了承下さい。

『火曜日のごちそうはアルフォンス』 その1日目


森の中に兄弟は暮らしていた。

行動派で探究心の強い兄、エドワード・エルリック。
慎重派で思慮深い弟、アルフォンス・エルリック。

二人は三本杉の根元に小屋を立てて仲良く暮らしていた。
兄弟は二人とも、金髪で金の瞳を持っていた。
長髪でポニーテールにしているのが兄。
短髪ですっきりと刈っているのが弟。
そして今、季節は冬。
たくさんの食料を蓄えて、雪解けまでこもって暮らしているのだ。
ここの雪は深くて、背丈の倍以上も積もる。
だからどの村人も、春を待ちながら小屋でぬくぬくと暮らすのだ・・・が。

「あ〜〜っ!!もうつまんねえ!!!飽きた、すっげえ飽きた。」
「・・・兄さん、まだ冬は終わらないよ?」
「だってさ、本だって全部読んじまったし、やる事なんて全部やりつくしたからな。」
「もう1回、読み直しなよ。」
「もう3回読んだ。なんならソラで音読しようか?」
「いいや、いいよ。ボクだって読んでるし。どうせ推理小説の最後とか言っちゃうんだろ?」
「わははっ、ばれたかァ!」

もともとじっとしているのが苦手なエドワードは、すっかり飽きてしまっていた。
パタパタと部屋中を歩き回って、うっとうしい事この上ない。

「ちょっと、大人しくしてよ。もうすぐブルーベリーパイが焼きあがるから、お茶にしよう。」
「お、いいな。オレ、ブルーベリー好き。どうりで良い匂いがすると思った。」

まもなくオーブンから焼きたてのパイを取り出した。
こんがりと焼き目がついて、とても美味しそうだ。
アルフォンスはたっぷりとマグカップに紅茶を入れて、エドワードとお茶を楽しんだ。
二人とも会話をすることを楽しみ、調べた事や本の解釈などを話し合う。
ああでもない、こうでもないと他愛無い話でも笑顔を交わす。
それが二人の日課なのだ。
そしてやっと、最後のブルーベリーパイを食べ終わるとエドワードはこう切り出した。

「なあ、このパイってまだ作れるのか?」
「え?うん、今年の秋はたくさん取れたからね。作れるけど、どうして?」
「これさ、ピナコばっちゃんの所に持って行ってやろうぜ。」
「え〜、だって雪道を歩いていったら3日はかかっちゃうよ?」
「だからいいんだよ。遠足だ、ハイキングだ、冒険だァ!!」

アルフォンスは呆れて、溜息をついた。
外は雪深くて寒い。
しかもこの季節は、大鷲が獲物を狙って空を飛んでいるはずだ。
掴まれば命はない。

「・・・寒いし、危ないよ。」
「大丈夫だって。寒さはセーターを何枚も重ねて気りゃいいんだし、大鷲だっていないさ。」
「どっから来るんだろうね、そのポジティブ発想。」
「とにかく、ばっちゃんだって暇で死にそうになってるさ。オレ達が行けば絶対よろこぶって。」
「そりゃ、・・・そうだけどさ。」
「ブルーベリーパイ、届けてやろうぜ。」

ニコニコと嬉しそうに笑う。
こうなるとエドワードは、断ったとしても絶対に一人で行くだろう。
大きく溜息をついて、アルフォンスはこう言った。

「わかった、じゃあ行くよ。但し、パイを焼くのに時間がかかるから出発は明日だよ?いいね。」
「よっしゃあ〜、決まりだな。オレ、着替えとか荷物まとめるよ。」
ウキウキと大きなリュックサックを2つ出して、エドワードはクローゼットをあけた。
それからアルフォンスは、ブルーベリーのほかにラズベリーや、クルミのパイを焼いた。
途中で食べられるように、大麦パンのサンドイッチやローストビーフのピタも用意する。
温かい紅茶も飲めるように、とっておきの葉を缶ごとリュックサックにしまった。
多少、着く日程がずれてもいいように多めに食料を二つのリュックに分けて詰め込んだ。

「ほらアルフォンス見ろ、これなーんだ!」
「あ、かんじき?」
「そうだ、でこっちがスキーだ。」

雪道でも歩きやすいようにエドワードは、ブーツのそこにつけるタイプのかんじきと小さなスキーを用意した。
これなら雪に埋まらずに、進みやすいだろう。
しっかりと準備をして、戸締りをして早朝二人は出発した。
天気も良くて、キラキラと雪面が光りとても綺麗だった。

「誰も踏んだ跡ないな。」
「そりゃそうだよ。こんな寒い冬に出かけようなんて考えるの兄さんくらいなもんだよ。」

4枚セーターを着て、ジャンバーも2枚着込んだ二人は、丸々と太って見えた。
靴下も4枚は履いているので、全身が膨れている。
でもそのお陰で、寒くは感じられなかった。

見たことのない冬景色に、アルフォンスも楽しくなっていた。
キラキラ光る木々、眩しすぎる太陽。
どれもこれも、冬籠りしていたら解らなかった物ばかりだ。

「キレイだね。」
「ああ。な?出かけてよかっただろ?」

二人は笑い合ってすこし小高い丘に出た。
もう少したら休憩しよう。
そう声をかけあった矢先の事。
急に空が暗くなったかと思うと、空から黒い塊が落ちてきた。
それは大きな羽を広げた鷲だった。

「兄さんっ!!」
「逃げろアルっ!!」

二人は転がる様に丘から下へと走り出した。
でも大鷲の飛ぶスピードは、それ以上に早い。
雪に足を取られて転んだアルフォンスめがけ、鷲は大きな爪を食い込ませた。
着ぶくれしているために肌には触れないが、空高く軽々と持ち上げる。
エドワードの見ている目の前で、アルフォンスは大鷲にさらわれてしまった。

「兄さん、兄さんっ!!」
「アルフォンスっ!!返せよ、オレの弟なんだよっ!!」

大声で叫んでも、大鷲は優雅に羽を羽ばたかせて空の彼方へとあっという間に去ってしまた。

「ちっくしょう!絶対、助けてやるからな!!待ってろよ、アル!」
そう空に向かって、エドワードは叫んだ。