「あの黒猫、元気ですか?」
「ああ、ほかの猫どもと一緒に遊んでいる」
「他にもいるんですか?!」
「…うむ、ついな…。里親に貰いそびれた猫が他に数匹…」

スカーは恥ずかしげに視線を外に向けた。
まさかこの人を食いそうな強面の自分が、大勢の猫と暮らしているなんて恥ずかしいと思ったからだ。
なのにアルフォンスは、キラキラと好奇心旺盛の視線を向けた。
その気迫に押される。

「ダメだ…」
「何も言ってませんよ!」
「どうせ、家に見に行かせろというつもりだろう」
「わ、先生すごいっ!エスパーなの?」
「そんな顔をしていたら、誰だってわかるぞ」
「ええ〜?でも、先生の家行きたいです!」
「ダメだと言ってるだろう」


「じゃあ、こうしましょう」

にっこりと笑ってスカーの手を取る。
何をするのかと思っていたら、自分の小指とスカーの小指をからませた。
小さな手が触れて、柄にもなくスカーはどきりとした。
学校の生徒で、しかも男子生徒だというのに…。

「今度の倫理のテストで満点取ったら、先生の家に遊びに行ける。っていう約束してください」
「…何を…」
「指切りげんまん…」
「勝手に進めるな!」

もう何を言っても無駄だろう。
スカーはされるまま放っておいた。

「指きった!」

嬉しそうに手を離す。
何が良くてここまで懐いているのだろう。

 

ゴンドラがどんどん下がっていって、もう終点だ。
少しさびしい気もするが、気にしないようにした。

先に飛び出すようにゴンドラを降りるアルフォンスを追って、スカーも降りた。
背を向けてたアルフォンスはくるりと振り返り、

「ねえ、先生は楽しかったですか?」

と不安げに尋ねた。
今日一日を振り返ってみる。
平凡な日常と比べて、まったく異質の世界に来たようだとスカーは思った。
きっと、アルフォンスに誘われて無理やり手を引かれなかったら来ることはなかったであろう。
倫理上、問題はあるとしてもこの位は許容範囲ではないかと考えた。

「まあ、家で1日過ごすよりは変化があった。たまにならこういう場所もいいのかもしれん」
「あははっ、楽しかったって言ってくれないんだ。でも、ボクはすっごく楽しかったです。ありがとうございました」

キラキラと光るように見える笑顔が、自分と居るせいでそうなっているとは信じがたい。
しかし、慕ってくれる生徒がいるなら教師になってよかったと初めてそう思った。

「うわ、もうすぐ5時だ。帰らなくっちゃ…なんか、ちょっと早すぎるシンデレラみたいですね」
「何を馬鹿な・・・」
「さてと、テスト頑張ってネコちゃんに会いに行かなくちゃ。にゃあ!」

今度こそ、テストの点を99点にして家に来るのを阻止しようと思いつつ、掃除が大変だと考えている自分を満更悪くないと思うスカーだった。


END