「パンフレット見てたんですけど、あとはカヌーを漕いで、ぷー助のはちみつ狩りに乗ろうかなと…」
「まだ遊ぶのか?!」
「だって、夜の10時までここやってますよ。まだまだ遊べるから」
「いや駄目だ。5時にはここを出る」
「え〜、そんな時間で帰ったら花火が見られないじゃない!早すぎるよ」

頬を膨らませて眉間にしわを寄せて不機嫌さを表す。
そんな風に抗議をしたとしても、スカーは考えを変える気はなかった。

「いいか、俺は教師でお前は生徒だ。学校行事でもないのに、こうして校外で会う事も本来なら好ましくない」
「…あ、そうなん、ですか…」
「だから明るいうちに帰宅させる。いいな?」
「はい、わかりました」

不貞腐れたような表情を引っ込めて、素直にうなずいた。
言えばちゃんと話を聞くのだなと、スカーは知った。

「じゃあ…最後に一つ乗ったら帰ります。先生に迷惑かけたくないから」

もうすでにここに来た時点で迷惑をかけているとは思っていないアルフォンスに、思わず吹き出しそうになる。
もっとも笑いはしないが…。
そして疑問だった、最初の出会いを聞こうとした。

「エルリック、いつ俺を知ったのだ」
「え?…内緒です。思い出してくれるまで秘密」
「思い出せる気がせぬのだが」
「それでもいいです。先生にとってはたいした事じゃなかったんですね。ボクにとっては、大きな出来事でしたけど」
「もったい付けずに言え。気分が悪い」

クスクスと笑って答える気が無いようだ。
プリンを綺麗に食べきって、大事そうにカップを袋に入れカバンにしまった。

「じゃあ、少しずつヒントを出します」
「だから言えと言っているのだ…おい…」
「返却してきますね」

にっこりとトレイを持って立ち上がり、それをかたづけると小走りに寄ってくる。
まるで子犬のようだと思った。

「さあ行きましょう。高い所は平気ですか?」
「平気だが…」
「観覧車から見える景色がきれいなんだよねェ」

今度は腕を取って歩き出した。
どうしてこうもスキンシップをはかるのか、スカーには理解できない。
自分でもそう思うが、強面で人に良い印象を与える方ではないし、どちらかというと寄せ付けないオーラが漂っている。
実兄にも
「もう少し笑ったらどうだ?」
と注意されるくらい、柔らかい表情もした事もない。
なのに、パーソナルスペースなどお構いなしにアルフォンスはずかずかと侵入してくる。
もしやエドワードともこんな風にしていて、それの延長線なのだろうかと推察する。
自分は実兄とはこんな事はしないが、この兄弟だったらありえそうだ。

「腕を離さないか。誰かに見られるぞ」
「嫌ですか?」
「嫌とかそう言う問題ではない」
「嫌じゃなかったら、迷惑ですか?」
「兄弟でもない他人が、ましてや教師と生徒という間柄ではそういう事をするものではない」
「みんな知らないですよ?ボク達が教師と生徒だなんて」
「皆が知らなくとも、俺が知っている」

その一言でアルフォンスはパッと腕を離した。
そして表情を曇らせる。

「ごめんなさい、浮かれすぎてました…」

 

 

その言葉にスカーは驚いた。
自分と出かけただけで、浮かれる様な人物がいるとは思っていなかった。
言い過ぎたかと、あまりの萎れ具合に腕を貸してやらないでもないと言おうとしたが、それも変だと止めた。

「わかればいい。さあ、次は観覧車だな」
「はいッ!」

嬉しそうに笑いながら、アルフォンスはスカーを見上げた。
もし、自分に弟がいたとしたらこんな風に懐くのだろうか。
いや、自分も弟だが兄に対して腕を組もうなどとは思えないので、やっぱり違うなと考えを改める。