どこからともなく楽しげな音楽が流れていて、家族連れ、恋人同士、友達同士と楽しげな人々で溢れかえっていた。
その中で異彩を放つ二人が今、ワゴンの前で品定めをしている。

「う〜ん、ボクは魔法の帽子付のカチューシャにしよう。先生はどれにする?」
「・・・かぶらんぞ・・・そんな物」
「こういうのは雰囲気から楽しまないとダメですよ。じゃあ先生はネコ耳」

つま先立ちしてスカーの頭にちょこんとカチューシャを乗せる。
そして可愛らしくにっこりと笑った。

「…アルフォンス・エルリック…これが俺に似合うと思うのか…」
「よくお似合いです。じゃあ、これ下さい」

財布を取りだし、さっさと支払いを済ませてしまった。
人の話を本当に聞かない奴だとあきれる。

「…こんなもの、奢ってもらう訳にはいかない。さっさと返品しろ」
「タグ切っちゃったから返品できませ〜ん。それに奢るんじゃなくて、帰る時にボクが持って帰れはいいでしょ」
「ううむ、それなら…。いや違う。そうではなくてだな…」
「あ、ジェットコースター乗りたい」

スカーの武骨な手を握り、ジェットコースター乗り場へと走り出す。
自分のよりも一回りも、二回りも小さな手だが力強く握り引っ張っていく。

「待て、手を離さんか」
「もしかしてスカー先生って、絶叫系は苦手なんですか?」
「そうではないが、手を繋がなくとも…」
「じゃあ早く早く!人気だから列が伸びちゃう」
「だから、人の話を聞けというのに」

もう呆れて注意するのも疲れてくる。
こうなると、本当に耳が悪いのではないかと心配になるくらいだ。
その後もあちこちに引っ張りまわされて、スカーは疲れていた。
アルフォンスの方は満足そうに笑っていて、少しも疲れていないように見える。

「何か飲みましょうか?何がいいですか、先生」
「…それは俺が出す。あと何か食べるか」
「え?いいんですか??わあ、じゃあスーペニアカップのミルクプリンがいいな。ちょっと高いけど…」

随分とお子様なチョイスをするなと思いつつも、スカーはフードワゴンに並ぶ。
ミルクプリンは素晴らしく乙女チックにデコラクティブされていて、これまた可愛らしい陶器のカップに入っていた。
少し顔をしかめたが、頼まれてしまったので仕方なく店員に注文をする。
意外そうな顔をされたがあえて自分が食べるのではないと言い訳するのも馬鹿らしく、黙ってお金を支払う。
そして、何故自分がここに居るのだろうと改めて考える。
夢の世界、ファンタジーの世界に無縁だと思っていたからだ。

席を取っていたアルフォンスの元へと近寄ると、近隣の女性はパンフレットに目を落としている彼を見ている事に気が付く。
あれ程に女性陣から好意の目で見られているのだから、こんな男と遊園地へ来る必要があるのかと理解に苦しむ。
より取り見取りで好みの女性を選べるだろう。
それよりも何故、自分なのだと。
男の同年代の友人も居るだろうに。
それに引き替え自分はケンカに誘われた事はあっても、遊園地などに誘う者など今まで居なかった。
アルフォンスの思考など、本当に読めない。

「買って来たぞ」
「わあ、ありがとうございます。へへ、先生におみやげ買ってもらっちゃった。部屋に飾ろうっと」
「水分も必要だろう。茶も飲め」

嬉しそうに笑うので、嫌々ながら連れてこられたとはいえこちらも悪い気がしない。
結局は乗せられてしまっているのだなと、観念した。
乙女チックなプリンを、ネズミの耳のカチューシャをつけたアルフォンスが食べていても違和感がないと見つめてしまっていた。
『女子どもの食い物だと思っていたが、そうでもないのかもしれない』
嬉しそうに食べるさまを監察していたら、その視線に気が付いたらしくスプーンですくって目の前に差し出した。
欲しいと思われたのだろう。

「美味しいですよ。先生も一口要ります?」
「いや、いい」

大の大人が物欲しげに見つめていたと勘違いされて恥ずかしくなる。
しかもこんな若い少年に食べさせてもらうなんて、もっての外だ。
首をかしげて見ているので、横を向いて視線を逸らした。
アルフォンスは食べさせるのを諦めて、自分の口へとスプーンを運ぶ。